無限圏の高次の射2
前回( 無限圏の高次の射1 - 思翠と想華 )から少し進展があったので、まとめておこうと思います。以下の記述は [HTT] Lurie, "Higher Topos Theory" , [Groth] Groth, "A Short Course on ∞-Categories" を参照しています。
右射の空間
を無限圏、 を の対象とします。このとき、 [HTT] p27 や [Groth] Remark 1.16. (ii) において次のような単体的集合が定義されています:
定義 単体的集合 を、各 に対し、
ことで定義する。これを から への 右射の空間 (space of right morphisms)と呼ぶ([HTT])。
以降、簡単のため とおきます。 で の -単体がどのようになっているか具体的に見てみます。
- です。つまりこれは、 における から への射全体のなす集合です。
- です。つまり、 とすれば、 は における から への左ホモトピー(前回の記事の用語では (2,0)-射)となります。面写像は の 2 つで、前者は左ホモトピーの codomain を与える写像、後者は左ホモトピの domain を与える写像です。
- です。面写像は の 3 つです。
右射の空間における射・左ホモトピー
は単体的集合なので、これに対して無限圏における射にあたるものを考えてみます。以降、単体的集合 の -単体 に対して、その面を書く際に という表記を用いています(ここで、面写像がどの単体的集合に付随するものであるかに注意を払う必要があります)。
- まず、 の対象 とは の元 のことです。つまり、 は における から への射です。 とします。
- このとき、 における から への射 とは、 であって をみたすものです。
- なので(この は の面写像)、 は における 2-単体であって をみたすもの(これは における表示)です。
- したがって、 における対象 から対象 への射とは、 における射 から射 への左ホモトピーであることがわかります。
ということは、 において無限圏の左ホモトピー( (2,0)-射)にあたるものを考えることで「左ホモトピーの間の左ホモトピー」がどのような形になるかがわかりそうです。実際にやってみると次のようになります:
- を における対象 から対象 への 2 つの射とします。
- このとき、 における射 から射 への左ホモトピー とは、 であって をみたすものです。
- において なので、 は における 3-単体で をみたすものとなります。
- したがって、 における左ホモトピー から左ホモトピー への左ホモトピーを、 であって なるものと定義できると考えられます。
の対象間の射を 1-射 、 1-射の間の左ホモトピーを 2-右射 、上で述べた 2-右射の間の左ホモトピーを 3-右射 と呼ぶことにします(これらの用語は公式なものではありません)。[HTT] において単体的集合 が右射の空間と呼ばれているため「右射」という語を用いましたが、なぜ「右」なのかは今のところわかっていません(左ホモトピーとややこしいですね…)。
高次の右射
前節の議論を一般化して、「 -右射の間の -右射」を定義することを考えてみます。一般形の定義を決めるために、もう 1 つ具体的に、3-右射の間の 4-右射がどのような形になるか見てみようと思います。そのためには前の議論と同様に、 における 3-右射を考えればよさそうです。
を における 2-右射、 を における 3-右射とします。 なので、 における 2-右射 から 2-右射 への 3-右射 を考えることができます。これは次のようなものです:
- は における から への 3-右射なので、 において が成り立ちます。
- の元は への制限が となるので、 の面写像の定義とあわせれば、 において が成り立つことがわかります。
したがって、 における 3-右射 から への 4-右射 を、 であって なるものと定義できそうです。ここで、
を用いて条件式を書き換えれば、
となります。これと、
を観察すれば、 における -右射の間の -右射を次のように定義できると考えられます。
定義 に対し、 における -右射 から への -右射 を次のように定義する:
- のとき、 は における対象 から の 1-射。
- のとき、 は で、 をみたすもの。ここで、各 に対し である。
次回
長くなってしまったので、一旦区切ろうと思います。今回は単体的集合の範囲でできることを述べましたが、実は は Kan 複体になります。次回はこのことに触れたあと、それを用いて高次右射の合成や逆射を考察する予定です。