同一視 1
記法:群 を対象が 1 つの圏とみなしたものを, と表記する。
を(局所小)圏とする。
1.1
を圏 の対象とする。このとき, である。すなわち,ある同型射 が存在する。
- だが,この同型射 は 1 つとは限らない。これら全体のなす集合を と書く。
- 恒等射 は同型射である。
- また,任意の同型射 に対して,その逆射 も同型射である。
- したがって,集合 は圏 における合成に関して群をなす。
- 同型射 が 1 つであることと,群 が自明群(に同型)であることは同値である。
すなわち,対象 と の "同一視の方法" は一般にただ 1 つではなく,それらのデータは群として現れる。 "同一視の方法" がただ 1 つであることと,その群が自明群であることは同値である。
1.2
を圏 の対象とし, と仮定する。すなわち,ある同型射 が存在すると仮定する。
- 上と同じく,この同型射 は 1 つとは限らない。対象が と の 2 つからなり,射が対象 の圏 における自己同型全体,対象 の圏 における自己同型全体,対象 から への圏 における同型射全体,対象 から への圏 における同型射全体すべてからなるような,圏 の部分圏を と書く。
- 圏 は と同じである*1。
- 圏 ではすべての射は同型射である。すなわち,圏 は亜群 (groupoid) である。圏 は,ある群 を圏とみなした と一般には圏同値にならない。
- 圏同値になるためには,例えば,少なくとも集合 と の濃度が等しくなければならない。しかし,前合成と後合成を考えることにより,一般に前者より後者の方が濃度が大きくなることがわかる。
- 同型射 がただ 1 つであることと,圏 が自明圏 に圏同値であることは同値である。
- 注意:自明圏 は自明群 を圏とみなした とも表現できる。2. と比較せよ。
- より強く,同型射 がただ 1 つであることと,群 がともに自明群であることは同値である。
- 対偶をとることで示せる。
すなわち,対象 と の "同一視の方法" は一般にただ 1 つではなく,それらのデータは亜群として現れる。 "同一視の方法" がただ 1 つであることと,その亜群が自明圏と圏同値になることは同値である。
1.3
1.2 の状況を多対象化する。 を圏 の対象のいくつかの集まりとし, に属するような圏 の任意の 2 つの対象 が同型であるとする。
- に属する対象のなす圏 の充満部分圏に含まれる最大の亜群 (maximal groupoid)*2 を と書く。これは 1.2 における圏 にあたる。
- 1.2 と同様に,圏 は,ある群 を圏とみなした と一般には圏同値にならない。
- 任意の に属する 2 つの対象 に対して,同型射 がただ 1 つであることと,圏 が自明圏 に圏同値であることは同値である。
- より強く,任意の に属する対象 に対して,群 が自明群であることとも同値である。
すなわち,1.2 の結論は 2 つの対象の間の "同一視の方法" だけでなく,複数の対象の間の "同一視の方法" に対しても成り立つ。
1.4
1.3 で記述した現象の例として,普遍的対象の一意性について考察する。圏論の一般論から,普遍的対象はある圏における始対象もしくは終対象として記述される。そのため,以下,圏 の始対象を考える。 の対象 が始対象であるとは,任意の の対象 に対して,ある一意的な の射 が存在することである。
- 圏 の始対象 は 1 つとは限らない。始対象全体がなす圏 の充満部分圏を と書く。
- 始対象の定義から,任意の 2 つの始対象 に対して次の 2 つが成り立つ。
- 圏 における射 と が一意的に存在する。
- 上の射 と は互いに逆射である。すなわち,射 はともに同型射である。
- 条件 b より,圏 は亜群である。条件 a での一意性と 1.3 より,始対象の間の "同一視の方法" はただ 1 つであり,亜群 は自明圏 と圏同値である。
すなわち,普遍的対象(始対象)の一意性が,(ある圏の中において)それらのなす亜群が自明圏 に圏同値であるとして表現されることがわかる。
次回 同一視 2(未完成)